公開: 2021年9月7日
更新: 2021年9月7日
2021年の8月、都市銀行の一行が利用しているオンライン・システムで、ATM装置を使って「振込処理ができない」などの問題が発生しました。この銀行では、2002年からの約二十年間に渡り、その銀行のオンライン・システムでの動作が「正常に働かなくなる」と言う問題がたびたび起こっていました。
「みずほ銀行」は、2002年の4月に、旧大蔵省の方針に従って、旧第一勧業銀行などの巨大銀行、3行が統合され、新しく設立されたメガ・バンクの一つです。この2002年の3行統合のために、それまでは別々の銀行として、別々に開発され、別々のコンピュータ会社によって維持されてきたオンライン・システムを、1つの統合されたシステムに統合する必要が発生しました。
この時、3行の情報関係の責任者達が選択した統合戦略は、従来から使っているそれぞれの銀行のシステムをそのまま利用できるように、それまでの各行のオンライン・システムを使いながら、他の2行のコンピュータ・システムとの情報交換を可能にする特別な「橋渡しシステム」を準備することでした。この「橋渡しシステム」を利用することで、新システムの開発を先延ばしできると言うのが、選択の理由でした。
実際に、3行が「橋渡しシステム」の開発に着手し、開発が進んで、その働きを「試験」する段階に入って、それまでの開発の遅れもあり、2002年3月末までに作業を完了することは、難しいことが分かってきました。それでも、「みずほ銀行」は、そのことを公表せず、作業を続けました。4月1日になって、新銀行が発足した日の朝、コンピュータ・システムが動き始めると、「橋渡しシステム」だけでなく、それまで動いていた旧各行のオンライン・システムも動かなくなっていました。
旧3行の情報関連部門の専門家や、それぞれのシステムの保守を担当していたコンピュータ・メーカの専門家が総力を挙げて、このシステムの正常化に取り組みましたが、この問題からの復旧には、約1か月ほどの時間を要しました。その後も、みずほ銀行では、このオンライン・システムの故障などに手を焼いてきています。
専門家の間では、もともと「橋渡しシステム」と言う「安易な手段」を採用したことが、一連の問題の根源にあると言われています。それは、それぞれの銀行に長い企業文化と歴史があり、その背景のもとにそれぞれのオンライン・システムが構築されており、それを表面的に「一つに見せる」ようにしても、旧大蔵省が統合によって解決しようとしていた根本的な問題を解決したことにはならないと言うことでした。
コンピュータやソフトウェアは、一見、融通無碍な道具に見えます。しかし、いざ、それを使ってみると、その背景にある、作った人々のもつ文化的な特徴や、それを使って来た人々がもつ文化的な特徴を無視することはできません。働きが似ているからと言っても、従来からの「もの」がそのまま利用できるとは限らないのです。